そっと見守るような…そんな愛し方ができたら良かった?
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このひとは、いつでもそうだ。自分は何も言わない癖に、僕が何かを言わずにいると、酷く機嫌が悪くなる。(今日だって、ほら、そうだ。ちょっと書き置きを忘れて買い物に出ただけなのに。)(しかも、あからさまに怒りをぶつけて来ないから、随分とタチが悪い。)折角、朝からのんびりとしていた部屋は今はもう、閑散としていた。こうやって、ほら、自分は直ぐに、愛人さんの所へだったり酒場だったり、フラっと出掛けて行って、いつ帰ってくるか理解らない癖に。せめて何日も宿を外すなら、(むしろ、町に滞在する日数くらい、)教えてくれたって、良いと思う。
流石に、一週間、宿に帰って来なかった時は、師匠の顔を見た瞬間に、泣いてしまったけれど。
「あ、師匠、お帰りなさい。」
「あぁ。」
木製独特の軋む音と共に、コツコツと靴音が室内へ響き、ポス、と通り際にテーブルへと置かれた帽子を掬い上げ、あるべき場所へとかける。いつしか自分の仕事になった其れが、少し心地良かった。(なんだか、僕だけ少し特別、みたいで。)(だって師匠、誰かに私物を触らせる、なんて、そんなに気を許したりしないでしょう?)そんな事で僕の機嫌が良くなるなんて、きっと師匠は知らないだろうし、言う気も無いけれど。(だって師匠は気紛れだから。)
「早かったですね、帰って来るの。」
「あぁ。」
未だ少し、不機嫌そうな声は窓際の椅子から聞こえてきて、僕の方には来ない。(いつもの事だ。)仕方ないから、師匠のお気に入りのお酒、(大体、さっき買い物に出たのだって、師匠のお酒を買いに行ったのに。)を手に窓際へと足を進める。チラリ、と僕を一瞥して、手に持っているお酒へと視線を移した。
「はい、どうぞ。」
「…どうした。」
「さっき、買いに行ったんです。師匠、これ好きでしょう?」
「……、…」
「師匠?」
「手を出せ、馬鹿弟子。」
「え?わっ?」
ポイ、と放り投げられたものを咄嗟に両手で受け止め、マジマジと眺める。紅く、毒々しいほどに色づいた、林檎。知恵と罪を詰め込んだ、林檎。噛めば甘い蜜が滴りそうなそれと師匠を見比べて首を傾げれば、聞こえたのは小さな嘆息。
「お前は、それが好きだろう。毎朝食べるほど。」
「え?…師匠、買って来てくれたんですか?どうして?」
「買い忘れた、ってまた買いに行くんだろう。」
「……てっきり愛人さんの所に行ったとばかり…」
「そんなに早く、コトを済ませて帰って来るか。」
「…そう…、ですけど…」
「それに、あまり外にいると、泣くだろう。お前は。」
再度、師匠と、手の中の林檎を見比べて、言われた言葉を頭の中で繰り返す。なんだ師匠、仲直りのしるし、ですか?僕、悲しかったけど、怒ったりなんてしてませんよ。あ、でも、きっとそれも判ってるのかもしれない、なんたって師匠だから。こんなに簡単に、僕の気分、直しちゃうんだから。もう、今度からはちゃんと、僕も書き置き、忘れませんから、師匠も一言くらい、言っていって下さいね。そしたら僕、ちゃんと泣かずに待ってます。
「師匠、林檎半分こしましょう!」
「…一口でいい。」
流石に、一週間、宿に帰って来なかった時は、師匠の顔を見た瞬間に、泣いてしまったけれど。
「あ、師匠、お帰りなさい。」
「あぁ。」
木製独特の軋む音と共に、コツコツと靴音が室内へ響き、ポス、と通り際にテーブルへと置かれた帽子を掬い上げ、あるべき場所へとかける。いつしか自分の仕事になった其れが、少し心地良かった。(なんだか、僕だけ少し特別、みたいで。)(だって師匠、誰かに私物を触らせる、なんて、そんなに気を許したりしないでしょう?)そんな事で僕の機嫌が良くなるなんて、きっと師匠は知らないだろうし、言う気も無いけれど。(だって師匠は気紛れだから。)
「早かったですね、帰って来るの。」
「あぁ。」
未だ少し、不機嫌そうな声は窓際の椅子から聞こえてきて、僕の方には来ない。(いつもの事だ。)仕方ないから、師匠のお気に入りのお酒、(大体、さっき買い物に出たのだって、師匠のお酒を買いに行ったのに。)を手に窓際へと足を進める。チラリ、と僕を一瞥して、手に持っているお酒へと視線を移した。
「はい、どうぞ。」
「…どうした。」
「さっき、買いに行ったんです。師匠、これ好きでしょう?」
「……、…」
「師匠?」
「手を出せ、馬鹿弟子。」
「え?わっ?」
ポイ、と放り投げられたものを咄嗟に両手で受け止め、マジマジと眺める。紅く、毒々しいほどに色づいた、林檎。知恵と罪を詰め込んだ、林檎。噛めば甘い蜜が滴りそうなそれと師匠を見比べて首を傾げれば、聞こえたのは小さな嘆息。
「お前は、それが好きだろう。毎朝食べるほど。」
「え?…師匠、買って来てくれたんですか?どうして?」
「買い忘れた、ってまた買いに行くんだろう。」
「……てっきり愛人さんの所に行ったとばかり…」
「そんなに早く、コトを済ませて帰って来るか。」
「…そう…、ですけど…」
「それに、あまり外にいると、泣くだろう。お前は。」
再度、師匠と、手の中の林檎を見比べて、言われた言葉を頭の中で繰り返す。なんだ師匠、仲直りのしるし、ですか?僕、悲しかったけど、怒ったりなんてしてませんよ。あ、でも、きっとそれも判ってるのかもしれない、なんたって師匠だから。こんなに簡単に、僕の気分、直しちゃうんだから。もう、今度からはちゃんと、僕も書き置き、忘れませんから、師匠も一言くらい、言っていって下さいね。そしたら僕、ちゃんと泣かずに待ってます。
「師匠、林檎半分こしましょう!」
「…一口でいい。」
幸福
レジスタンス
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( まだまだ子供な僕の、最大限の譲歩、ですよ! )
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